個人事業主がやるべきこと|開業から日々の運営・確定申告まで解説

会社員と違い、個人事業主は「すべてを自分で決める」ことができます。仕事の内容、働く時間、報酬の仕組み、取引先の選定まですべて自由。しかし同時に、その自由の裏側には「自分でやらなければならないこと」が数多く存在します。
開業届を出してスタートする瞬間から、日々の記帳や確定申告、社会保険、税金、そして売上の管理まで。これらを怠ると、思わぬペナルティや損失に繋がることもあります。
この記事では、個人事業主がやるべきことを「開業前・開業直後・日常業務・年次業務」の4つのフェーズに分けて、順を追って解説します。
開業前にやるべきこと
1. 自分のビジネスモデルを明確にする
まず最初に必要なのは、「何を、誰に、どのように提供するか」を明確にすることです。これは「ビジネスモデル」を構築するという意味であり、開業届を出す前に整理しておくべき最重要ポイントです。
- 提供する商品・サービス(例:デザイン業、ライティング、配送業など)
- 対象となる顧客層(個人向けか法人向けか)
- 主な収益源(単発契約・継続契約・販売マージンなど)
- コスト構造(仕入れ、人件費、通信費など)
この4点を明確にすることで、後の「経費の分類」や「確定申告の科目整理」にも役立ちます。

2. 必要な資格・許可を確認する
業種によっては、資格や行政の許可が必要なケースもあります。たとえば以下のようなものです。
| 業種 | 必要な資格・許可 |
|---|---|
| 飲食業 | 飲食店営業許可、食品衛生責任者 |
| 建設業 | 建設業許可 |
| 運送業 | 一般貨物自動車運送事業許可、軽貨物届出 |
| 美容業 | 美容師免許、保健所への届出 |
| 不動産業 | 宅地建物取引業免許 |
開業前に自治体のHPや管轄の窓口で確認し、必要書類を早めに準備しておきましょう。
3. 屋号(事業名)を決める
個人事業主には「屋号」をつけることができます。たとえば「初東企画」「眞中デザイン」など、名刺や請求書で使用する商号です。
屋号は自由に設定できますが、商標権の侵害に注意しましょう。他社が既に登録している名称やロゴを使用すると、トラブルのもとになります。商標データベース(J-PlatPat)で事前に検索しておくと安心です。
4. 開業届の提出
準備が整ったら、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書(通称:開業届)」を提出します。提出期限は「開業日から1か月以内」です。
提出先:住所地を管轄する税務署
提出方法:窓口提出・郵送・e-Tax(電子申告)
ポイント:青色申告承認申請書も同時提出!
これを同時に出しておくことで、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。帳簿付けが複式簿記になりますが、節税効果が高いためおすすめです。
5. 事業用口座・クレジットカードの開設
プライベート資金と事業資金を混在させないために、専用の銀行口座とクレカを用意しましょう。これにより、経費計上や会計ソフトへの自動連携がスムーズになります。
おすすめの銀行:楽天銀行、住信SBIネット銀行、GMOあおぞら銀行など(ネットバンクは仕訳データ連携に強く、会計効率が高いです)
開業直後にやるべきこと
1. 会計ソフトを導入する
個人事業主の多くが導入しているのが「クラウド会計ソフト」です。具体的には以下のようなサービスが代表的です。
- freee(初心者向け、操作が簡単)
- マネーフォワードクラウド会計(データ連携に強い)
- 弥生会計オンライン(伝統的で安心)
これらを使うことで、日々の仕訳から確定申告書作成まで一括で管理できます。銀行口座やクレカを連携すれば、経費の自動仕訳も可能です。
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2. 税金関係の基礎を理解する
個人事業主に課される主な税金は次の通りです。
| 税目 | 概要 | 納付時期 |
|---|---|---|
| 所得税 | 所得に応じて課税 | 確定申告時(2月〜3月) |
| 住民税 | 前年の所得に応じて課税 | 6月〜翌年5月まで毎月納付 |
| 個人事業税 | 一定の業種・所得超過者に課税 | 8月・11月の年2回 |
| 消費税 | 売上1,000万円超で課税事業者に | 翌々年から課税開始 |
| 国民健康保険・国民年金 | 社会保険として自己負担 | 毎月納付 |
「税金は後からまとめて払うもの」ではなく、計画的に積み立てておくことが大切です。
3. 保険・年金の手続きを行う
会社員を辞めた場合、社会保険から抜けて自分で加入手続きを行う必要があります。
- 健康保険:国民健康保険(市区町村役場で手続き)
- 年金:国民年金(同じく役場)
- 任意継続:退職前の健康保険を最長2年間継続可能
また、所得に応じて国民年金基金や小規模企業共済などの制度も検討しましょう。これらは将来の年金対策であると同時に、所得控除で節税効果もある制度です。
4. 請求書・領収書の管理体制を整える
取引先への請求書、仕入れ先からの領収書は、税務署からの確認に備えて7年間保存が義務付けられています。電子帳簿保存法に対応した形でクラウド保存するのが現代的なやり方です。
- 領収書:スキャンやスマホ撮影でPDF保存
- 請求書:クラウド請求書サービス(例:Misoca、マネーフォワード請求書)
- 保存期間:原則7年(青色申告)、白色は5年
個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について|国税庁
5. 取引先との契約管理
業務委託契約や請負契約など、個人事業主は契約書の管理も重要です。特にオンラインでの仕事増加に伴い、電子契約(クラウドサインなど)の利用も一般化しています。
契約書では以下の項目を必ず確認しましょう。
- 報酬額・支払条件
- 納期・検収条件
- 権利関係(著作権や再利用権)
- 契約解除条件・秘密保持
契約トラブルを防ぐために、契約書はPDFで保存し、バックアップを取っておくことをおすすめします。
日常的にやるべきこと
1. 売上・経費の記帳を習慣化する
個人事業主の基本中の基本が「記帳」です。領収書や請求書を後でまとめて整理しようとすると、必ずと言っていいほど抜け漏れが生じます。
理想は週1回または月1回ペースで会計ソフトに記録すること。クラウド会計を使えば、銀行明細やクレジットカード履歴を自動で取得し、仕訳を半自動化できます。
記帳のポイント:
- 現金・銀行・クレカを明確に分けて記録する
- 勘定科目(交通費・通信費・消耗品費など)を統一しておく
- 家事按分(自宅兼事務所の場合など)は按分ルールをメモに残す
小さな支出でも積み上げれば大きな額になります。税務署のチェックに耐えるためにも、「根拠を残す」ことが信頼の基本です。
2. 請求書・入金の管理を徹底する
フリーランス・個人事業主でありがちなのが「請求漏れ」「入金確認漏れ」です。クライアントが複数になると、誰にいついくら請求したかを管理するだけでも大変になります。
管理表をつくるか、請求書発行ツールを使いましょう。
おすすめツール例:
- Misoca(請求書発行〜入金確認まで一元管理)
- マネーフォワード請求書(自動リマインド機能付き)
- freee請求書(会計ソフトと連動可能)
さらに、入金確認は月末時点で必ず照合すること。未入金があれば穏やかにリマインドメールを送りましょう。
3. 経費削減と投資のバランスを取る
経費を無理に増やすことは節税になりません。「将来の売上につながる支出かどうか」で判断することが重要です。
たとえば:
- 正:仕事効率を上げるためのPC・ソフト購入
- 誤:個人的な趣味用品や贅沢な出費を「経費扱い」
節税と無駄遣いの境界線は「事業関連性の有無」。“投資的経費”を意識して、価値を生む支出を選ぶことが成功の鍵です。
4. SNS・ホームページでの発信を継続する
個人事業主にとって「信用」は最大の資産です。SNSやWebサイトを通じて実績や人柄を発信することが、新規顧客獲得につながります。
- SNS:Twitter(X)、Instagram、Threads、LinkedInなど
- Web:WordPressやペライチ、note、Googleビジネスプロフィール
特に専門性をもった記事発信や制作事例公開は、SEO効果だけでなく信頼構築にも寄与します。“仕事を頼みたいと思わせる存在”になるために、発信を継続することが営業の一部だと考えましょう。
5. スケジュールと体調の自己管理
自由な働き方だからこそ、自己管理が仕事の質を左右します。睡眠不足や過労は判断ミスにつながり、納期遅延や取引停止のリスクも。
- Googleカレンダーで納期を可視化
- 1日の業務ルーティンを固定化
- 定期的に休みを設定してリフレッシュ
個人事業主は“走り続けるマラソン”です。短距離走のように全力疾走し続けると、必ず息切れします。
年次業務(確定申告・税務関連)
1. 確定申告の準備を早めに始める
確定申告は、毎年2月16日〜3月15日が原則期間です。しかし、その直前に準備を始めると地獄を見ることになります。
理想は12月末時点でほぼ集計を終えておくこと。クラウド会計を使っていれば、1月中に書類確認と帳簿修正だけで済みます。
2. 必要書類のチェックリスト
確定申告に必要な主な書類は以下の通りです。
| 種類 | 内容 | 保管場所の例 |
|---|---|---|
| 売上証憑 | 請求書・入金明細 | クラウド請求書サービス |
| 経費証憑 | 領収書・クレカ明細 | PDF・スキャンフォルダ |
| 各種控除書類 | 生命保険控除、医療費控除など | 郵送控え・電子データ |
| マイナンバーカード | e-Tax提出に必須 | スマホ認証またはカードリーダー |
青色申告の人は「貸借対照表」「損益計算書」も自動作成されるため、クラウド会計が圧倒的に便利です。
3. 青色申告特別控除を最大化する
青色申告を選択している場合、最大65万円の特別控除が受けられます。ただし条件があります。
- 複式簿記での記帳
- 貸借対照表・損益計算書の提出
- e-Taxで電子申告(または電子帳簿保存)
つまり、「クラウド会計+e-Tax申告」が最も効率的で控除額も最大化できる方法です。
4. 消費税の課税事業者になったら
売上が1,000万円を超えると、翌々年から消費税の課税事業者になります。この段階になると、売上に対して消費税を預かり、経費に対する仕入税額控除を行う必要があります。
- 消費税簡易課税制度の検討(業種により有利・不利あり)
- インボイス登録事業者であることの確認
- 取引先への影響も考慮
特に2023年以降のインボイス制度では、登録していないと取引先に迷惑をかける場合もあるため注意が必要です。
5. 節税対策と将来への備え
節税の王道は「控除制度」と「積立制度」をうまく使うこと。
| 制度名 | 内容 | 節税効果 |
|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 退職金代わりの積立制度 | 掛金全額が所得控除 |
| iDeCo(個人型確定拠出年金) | 老後資金を運用で積立 | 掛金全額が所得控除 |
| 国民年金基金 | 上乗せ年金 | 掛金全額が所得控除 |
| 生命保険控除・医療費控除 | 万が一に備える支出 | 一部所得控除対象 |
「税金を減らすための支出」ではなく、「将来の安心を作る支出」として活用しましょう。

長く続けるために意識すべきこと
1. 収入の分散化
1社依存は非常に危険です。取引先の方針変更や景気悪化で収入が突然途絶えるケースも。
- メイン業務+サブ業務(例:本業+オンライン講座)
- スキルを転用できる副収入の確保(note・YouTubeなど)
複数の柱を持つことで、景気変動にも耐えられる事業体質になります。
2. 専門家との関係づくり
税理士・社労士・弁護士など、専門家とゆるやかに繋がっておくことが、いざというときの安心につながります。特に税務や契約トラブルは「相談の早さ」が命。普段から顧問契約をしておかなくても、“困る前に相談できる関係”を築いておくことが大切です。
3. 自分のブランディングを育てる
長期的に見て最も重要なのは「自分の名前で仕事が来る状態」を作ること。口コミ・SNS・紹介を通じて、信頼が積み上がると営業しなくても案件が来るようになります。
ブランディングの基本:
- 一貫したトーンの発信
- 過去実績の公開
- 顧客の声・レビューの掲載
- オリジナルの名刺・Webサイト
“自分というブランド”を育てることが、個人事業の最大の防御です。
まとめ|個人事業主は「自分が会社」
個人事業主にとっての「やるべきこと」は、単なる事務手続きではありません。それは、「自分という会社を育てるための仕組みづくり」です。
- 開業前:準備と制度理解
- 開業直後:口座・帳簿・契約整備
- 日常業務:記帳・請求・発信・健康管理
- 年次業務:確定申告・節税・将来設計
このサイクルを繰り返すことで、あなたの事業は年々強く、信頼されるものになっていきます。
個人事業主とは、自分を社長として育てる生き方そのものです。その責任と自由を楽しみながら、着実に歩んでいきましょう。







