個人事業主は社会保険に加入できる?会社員との違いや種類、手続きを解説

会社員から個人事業主になると、働き方の自由度が大きく広がる一方で、税金や社会保険といった制度面での仕組みが大きく変わります。
会社員時代は、勤務先の会社が社会保険の手続きを代行し、保険料の半分を負担してくれていました。そのため、多くの方は「給与から天引きされている」という感覚しか持っていなかったかもしれません。
しかし、個人事業主になると、自分で必要な手続きを行い、全額を負担しなければならなくなります。これにより、毎月の出費や生活設計に直接影響が出るため、準備を怠ると「思った以上に保険料が高かった」「どの保険に入ればいいのか分からない」といった悩みにつながりやすいのです。
特に社会保険については、
- 「会社員のときと同じ保険には入れるの?」
- 「国民健康保険と国保組合って何が違うの?」
- 「国民年金だけだと老後が不安…」
といった疑問を抱える方が非常に多いのが現実です。
そこで本記事では、個人事業主が加入すべき社会保険の種類、会社員との仕組みの違い、加入手続きの流れや注意点について、できる限り分かりやすく解説していきます。これから独立を考えている方、すでに開業したばかりで不安を抱えている方にとって、必ず役立つ内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
個人事業主は社会保険に加入できない?

まず押さえておきたいのは、個人事業主本人は、会社員時代に加入していた「会社の社会保険(健康保険+厚生年金)」には原則として加入できないという点です。
会社員のときは、会社が半分の保険料を負担し、事務手続きも代行してくれていました。しかし独立すると、その仕組みから外れるため、同じ制度を利用することはできません。
具体的には以下の2つが大きな違いです。
① 労働保険(雇用保険・労災保険)には加入できない
労働保険は、本来「従業員を守るため」の制度です。事業主自身は労働者ではないため、雇用保険にも労災保険にも、原則として加入できません。
ただし例外として、労災保険については「特別加入制度」が設けられています。これは、危険の伴う業務に従事する個人事業主や一人親方などが、自らの身を守るために加入できる仕組みです。運送業や建設業などリスクの高い業種では、この特別加入を検討するケースも少なくありません。
② 厚生年金には加入できない
厚生年金は、法人事業所や「常時5人以上の従業員」を雇用している個人事業所に適用される制度です。したがって、従業員を雇っていない個人事業主本人や、数人規模で経営しているケースでは対象外となり、加入することはできません。
そのため、個人事業主本人は「国民年金」に加入するのが基本となります。厚生年金と比べると将来の年金額は少なくなるため、「付加年金」や「小規模企業共済」などを組み合わせ、老後の備えを強化することが一般的です。
厚生年金とは?保険料の計算方法や受給額の目安をわかりやすく解説 | 三菱UFJ銀行
つまり、個人事業主になると、会社員時代のように「会社が守ってくれる社会保険」には頼れなくなります。そのため、どの公的保険に加入し、どんな補完制度を利用するかを自分で判断・選択することが必要になるのです。
個人事業主 社会保険の手続き|退職〜開業「14・20・30日」タイムライン
会社員から独立して個人事業主になる際は、社会保険や税務の手続きに厳しい期限があります。見落とすと、未加入期間が発生したり、不利益を被る可能性があるため要注意です。以下のスケジュールを参考に、スムーズに移行を進めましょう。
退職翌日〜14日以内:国民健康保険・国民年金の切り替え
- 国民健康保険への加入手続き(市区町村役所で申請)
- 国民年金への切り替え(日本年金機構または市区町村役所)
- 必要書類:
- 健康保険資格喪失証明書(会社発行)
- 年金手帳または基礎年金番号通知
- マイナンバーカードや印鑑
退職翌日〜20日以内:任意継続被保険者の申請(希望者のみ)
- 任意継続被保険者の申請期限(最大2年間継続可能)
- 前職の健康保険組合または協会けんぽへ提出
- 締切が短いので特に注意!
任意継続の加入条件について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
退職月の末日までに:納付方法の選択と支払い準備
- 国民健康保険料や国民年金保険料の納付方法を選択
- 口座振替 or 年払い(割引あり)
- クレジットカード払いに対応している自治体もあり
チェックリスト(必須書類)
- 退職証明書/離職票
- 健康保険資格喪失証明書
- 年金手帳または基礎年金番号
- マイナンバーカード
- 本人確認書類、印鑑
個人事業主が加入する公的保険の種類

会社員を辞めて個人事業主になると、これまで会社を通じて加入していた「社会保険(健康保険+厚生年金)」から外れるため、自分で公的保険に加入する必要があります。
ここで紹介する国民健康保険・国民年金・介護保険は、個人事業主にとっての社会保険にあたる基礎的な制度です。
国民健康保険
国民健康保険は、病気やケガをした際にかかる医療費の自己負担を軽減してくれる制度です。
日本は「国民皆保険制度」を採用しており、すべての人がいずれかの医療保険に加入する義務があります。
- 加入先:お住まいの市区町村の役所で手続き
- 保険料:前年の所得、世帯人数、年齢によって計算される
- 自己負担割合:原則3割(小学生未満や70歳以上は負担割合が変わる場合あり)
会社員時代の健康保険と比べると、保険料をすべて自己負担する必要があるため「思ったより高い」と感じる方も多いですが、医療費が高額になった場合には「高額療養費制度」が使えるなど、安心して生活できる仕組みが整っています。
業種によっては「国民健康保険組合(例:文芸美術国保、建設国保など)」に加入できる場合もあります。自分の業種や地域にどんな国保組合があるかは、こちらの記事で確認できます。
国民年金
国民年金は、すべての20歳以上60歳未満の国民が加入する基礎年金制度です。
会社員時代に厚生年金へ加入していた人も、独立した後は国民年金に切り替える必要があります。
- 保険料:毎年国が定める定額制(令和7年度は月額17,510円)
- 受け取れる年金:
- 老後の「老齢基礎年金」
- 障害が残ったときの「障害基礎年金」
- 本人が亡くなった場合の「遺族基礎年金」
厚生年金と比べると将来受け取れる額は少なくなるため、多くの個人事業主は 付加年金(+月額400円で将来上乗せが可能) や 国民年金基金、小規模企業共済、iDeCo(個人型確定拠出年金) などを併用して老後資金を準備しています。
小規模企業共済とは | 共済制度 | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
iDeCo公式サイト|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
介護保険
介護保険は、要介護や要支援状態になったときに介護サービスを安く利用できる制度です。
- 加入開始年齢:40歳から自動的に加入義務
- 保険料:国民健康保険料と一緒に納付
- 対象サービス:在宅介護、デイサービス、施設利用など
若いうちは意識しづらい保険ですが、40歳を超えた段階で確実に負担が始まります。将来的な生活設計を考えるうえで、国民健康保険とセットで理解しておくことが大切です。
なお、40歳未満の個人事業主は介護保険料の負担はありません。40歳を迎えたタイミングで自動的に国民健康保険と一体化して徴収が始まります。
介護保険料は40歳からいくら払う?年金や所得ごとの納付額、支払い方法を解説|みんなの介護
介護保険料はいつから支払う?40歳の誕生月から? | 給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
各制度の概要を理解したら、次は実際にかかる社会保険料の金額や負担割合を確認しておきましょう。
個人事業主の社会保険(医療保険)加入方法4選|扶養・国保・任意継続・国保組合を比較

個人事業主が加入できる公的医療保険には、大きく分けて4つの選択肢があります。
どの制度を選ぶかによって、負担額や保障内容、そして家族の扱いも変わってくるため、自分や家族のライフスタイルに合ったものを選ぶことが大切です。それぞれの制度には、加入条件・保険料・メリット・デメリットがあるため、違いを理解して選びましょう。
① 家族の扶養に入る(保険料ゼロで済むケース)
配偶者や親族が会社員などで社会保険に加入している場合は、自身の年間収入が130万円未満(条件によっては106万円未満)であれば、その扶養に入ることができます。
扶養に入る最大のメリットは、保険料を自分で払う必要がない点です。収入が少ないうちは生活の安定にもつながります。ただし収入が増えて条件を超えると扶養から外れるため、急に自分で国民健康保険に切り替える必要が出てきます。そのため、将来的な収入見込みも踏まえて検討するとよいでしょう。
【2025年最新版】106万円・130万円の壁とは?扶養内パートが損しないための働き方を税理士が解説 | 西宮のクラウド会計サービスに精通した税理士事務所「なかがわまみ税理士事務所」
社会保険、106万円の壁とは?超えたらどうなる?10月の改正もあわせて解説 | MONEYIZM
② 国民健康保険に加入する(最も一般的な選択肢)
最も一般的で、多くの個人事業主が選ぶ方法です。退職日の翌日から14日以内に住んでいる市区町村役場で手続きを行います。
国民健康保険の保険料は、前年の所得や世帯人数によって決まるため、所得が高いと保険料も高額になりやすいという特徴があります。一方で、所得が少ない場合や子どもが多い世帯などでは減免措置が受けられることもあります。
医療機関での自己負担割合は会社員と同じ3割(70歳以上は1〜2割)なので、保障面で大きな差はありません。多くの人にとってベースとなる選択肢です。
国民健康保険に入るとき、やめるときは14日以内に届出ましょう | 広陵町
③ 健康保険組合を任意継続する(退職直後に選ばれる方法)
退職前に加入していた健康保険を、退職後も最長2年間だけ継続できる制度です。
手続きは退職日の翌日から20日以内に行う必要があり、締切が非常に短い点に注意が必要です。
デメリットは、会社員時代に会社が負担していた保険料(通常は半分)がなくなるため、保険料が一気に約2倍に跳ね上がることです。
ただし、所得が高い場合や扶養家族が多い場合は、国民健康保険よりも安くなるケースがあります。
また、医療保障の内容は退職前と同じなので、安心感を重視したい人には適した選択肢です。
任意継続の加入条件について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
④ 国民健康保険組合に加入する(業種別の特例制度)
特定の業種ごとに存在する「国保組合」に加入できる場合もあります。
たとえば、建設業、美容業、文芸、美術などの団体がこれにあたります。
国保組合の特徴は、所得に関係なく保険料が一律の場合が多いことです。
そのため、所得が高い個人事業主にとっては、通常の国民健康保険より保険料を抑えられる可能性があります。
さらに、組合によっては独自の付加給付(医療費の自己負担分をさらに補填してくれる制度)がある場合もあり、手厚い保障が魅力です。
ただし、加入できるのはあくまで対象業種の個人事業主に限られるため、自分がその条件に当てはまるかを事前に確認しておく必要があります。
「国民健康保険」と「国民健康保険組合」の違いが分かりません。どちらが良くて、どう選べばよいのでしょうか?フリーランス3年目の私にとって、どちらがよいでしょうか?|ファイナンシャルフィールド|その他保険
各制度の特徴を比較し、自分の所得・家族構成・業種に合った方法を選びましょう。とくに業種ごとの国保組合は、保険料や給付が大きく異なるため、該当する方は必ず確認を。
会社員の“扶養”と個人事業主の考え方(国保・国年には扶養がない)

会社員の社会保険にある“被扶養者”という概念は、国民健康保険と国民年金には存在しません。 家族それぞれが加入者となり、人数が増えるほど負担も増えるのが基本設計です。
退職・開業の移行期は「任意継続」「国保」「国保組合」「(収入要件を満たす場合の)配偶者の健保の被扶養者」など複数の選択肢が混在し、誰がどこに加入し、誰が支払うのかが混乱しがち。ここでは会社員の“扶養”の仕組みと国保・国年の考え方を対比し、誤解を避ける要点を整理します。
会社員の健保・厚年における「被扶養者」の仕組み
- 会社員の健康保険では一定の収入要件を満たせば保険料負担なしで家族が保障対象に。
- 厚生年金は原則本人のみが加入(配偶者は第3号など別の仕組み)。
- 退職するとこの枠組みから外れるため、同じ前提は使えない点に注意。
国保・国年の扱い:扶養=免除ではない
- 国民健康保険・国民年金に“扶養”はない。 各人が加入者となり保険料を負担。
- 国保は世帯単位で賦課され、世帯主が社会保険加入でも納付義務(擬制世帯主)となる場合あり。
- 40歳以上は介護保険料が別途発生する点も誤解しやすいポイント。
任意継続・国保・国保組合・被扶養(配偶者健保)の判断ポイント
- 短期の橋渡しなら任意継続(ただし20日以内など期限に注意)。
- 所得が高いなら国保組合(一律保険料・付加給付)で有利なケースも。
- 収入が基準未満なら配偶者の被扶養検討(将来の収入見込みで外れるリスクも織込む)。
- 家族構成・年齢・見込み所得で総合試算して最適化する。
個人事業主の国保・国民年金「軽減・免除」制度|社会保険料の負担を減らす方法

独立初期は収入が不安定になりがち。ここでは申請すれば下げられる可能性がある制度を、国保と国民年金に分けて最短で把握します。いずれも申請ベースなので、該当しそうなら早めに動くのがコツ。
国民健康保険(国保)の軽減・減免
- 所得に応じた保険料軽減:世帯の所得状況により、均等割・平等割が軽減される場合あり
- 災害・失業・収入急減時の減免:やむを得ない事情で収入が大幅減のとき、減免の対象になることがある
- 出産・子育て関連の軽減や給付:一部自治体で出産育児一時金や、子育て世帯の負担軽減措置を設けているケースも
- 手続き先:住民票のある市区町村(必要書類:所得状況が分かるもの、理由書・申請書など)
ポイント:前年所得ベースで賦課されるため、独立直後は“前年会社員所得”で高く出ることがある。減免制度の有無を自治体に確認し、該当すれば申請。
国民年金の免除・猶予
- 保険料免除(全額/一部):所得に応じて全額・4分の3・半額・4分の1の免除区分
- 納付猶予:若年者や所得が低い場合に納付を先送り(学生は学生納付特例)
- 追納:免除・猶予期間は後から10年以内なら追納可能(将来の年金額を増やせる)
- メリデメ:免除は将来年金が減るが、未納より大幅に有利(障害・遺族年金の資格にも影響)
- 手続き先:市区町村/年金事務所(必要書類:所得状況、学生証明など)
最短手順:
- 市区町村&年金事務所に“独立直後の収入見込み”を相談
- 該当制度の申請書を入手
- 期限内提出
- 結果通知を保管
申請前チェック(ToDo)
- 年内の想定課税所得レンジ(ざっくりでOK)
- 世帯の加入状況と納付義務者(国保は世帯主に納付義務が来る場合あり)
- 前年高収入→今年低収入などの変動理由を説明できる資料
- 毎年の更新・見直しスケジュール(免除・猶予は年度更新が基本)
独立初期は、上乗せ制度の前に軽減・免除の適用可否を必ず確認し、続けられる掛金設計に落とし込むのが正攻法。
不足分をどうカバーする?上乗せ制度&リスク対策(個人事業主)

会社員のときにあった厚生年金の上乗せや健保の付加給付・傷病手当金は、独立後は原則使えません。
※一部の国保組合には独自給付あり
そこで、公的の上乗せ制度と民間でのリスク対策を組み合わせて、老後・病気・休業の穴を埋めます。
まずは全体設計(超シンプル3レイヤー)
- ベース:国民年金+国民健康保険(介護保険は40歳〜)
- 上乗せ(公的):付加年金/国民年金基金/iDeCo/小規模企業共済
- リスク移転(民間):就業不能(所得補償)保険+必要最低限の医療・死亡保障
公的の上乗せ制度(特徴早見表)
| 制度 | 目的 | 掛金 | 控除区分 | 受取イメージ/ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 付加年金 | 老後上乗せ | 月400円 | 社会保険料控除 | 2年で元が取りやすい小口の“最優先”上乗せ |
| 国民年金基金 | 老後上乗せ | 月額自由(上限あり) | 社会保険料控除 | 終身年金型あり。付加年金と同時加入不可 |
| iDeCo | 老後資産形成 | 月5,000円〜(上限) | 小規模企業共済等掛金控除 | 運用益非課税。受取時の課税方式に注意 |
| 小規模企業共済 | 退職金づくり | 月1,000〜7万円 | 小規模企業共済等掛金控除 | 事業廃止・老後資金。途中解約の扱い要確認 |
休業・ケガ・入院への備え(会社員時代との違い)
- 傷病手当金:国保は原則なし。ただし任意継続や一部の国保組合で付くケースあり
- 労災:事業主本人は対象外だが、特別加入の選択肢(該当業種のみ)
- 就業不能(所得補償)保険:休業時の家計を守る要。日額・免責日数を家計に合わせる
- 医療費の上振れ:まず高額療養費制度を把握。民間医療は最低限+貯蓄で過不足を調整
モデル別の組み合わせ例
- 独立1〜3年目/単身:付加年金+iDeCo少額/医療は軽め+就業不能は低額から
- 子育て世帯:付加年金+iDeCo/小規模企業共済少額/就業不能は手取り相当の6〜12か月を目安
- 高所得・不安定収入:国保組合検討+付加年金 or 年金基金/iDeCo満額/小規模企業共済厚め/就業不能は厚め
迷ったらこの順で決める(カンタン手順)
- 家計の固定費上限を決める(売上変動時でも続けられる額)
- 付加年金を先にON
- iDeCoは余力の範囲で開始(年内開始が控除に有利)
- 基金 or 共済は「終身年金が欲しいか/退職金原資を作りたいか」で選択
- 就業不能保険は家計の最低限維持額で設定(免責60〜90日などで保険料を抑制)
見直しタイミング:年度替わり/売上レンジが変化/結婚・出産などの家族イベント。
社会保険料は「経費」ではなく「所得控除」が原則(個人分のみ)

個人事業主が支払う社会保険料(国民健康保険、国民年金、介護保険など)は、「事業経費」としては扱えません。これは、社会保険料が“生活費”に分類される支出であり、事業のために直接使われる費用ではないとされているからです。
その代わり、確定申告の際に「社会保険料控除」として全額を所得から差し引くことが認められています。 この「所得控除」は、税額そのものを減らすのではなく、課税対象となる所得額を減らす仕組みです。その結果として、支払う所得税や住民税の負担が軽減されます。
控除対象となる社会保険料の例
以下のような社会保険料が、所得控除(または関連控除)の対象となります。
- 本人の国民年金保険料
- 国民健康保険料
- 介護保険料
- 配偶者や扶養親族の社会保険料
- 国民年金基金
- iDeCo・小規模企業共済
たとえば、自分の国民健康保険料を年間30万円支払っている場合、この30万円全額が「社会保険料控除」として所得から差し引かれます。配偶者の分も自分が支払っていれば、その額も合算して控除可能です。
事業用口座からの引き落としでも経費にはならない
社会保険料の支払いを、事業用の銀行口座から引き落としていたとしても、それが経費として認められることはありません。この点は混同しやすいので注意が必要です。
確定申告時のポイント
確定申告の際は、「社会保険料控除」の欄に支払額を正しく記入することが重要です。税務署からの確認に備え、支払額が分かる書類(領収書や納付書、引き落とし口座の通帳コピーなど)を保管しておきましょう。
e-Taxや会計ソフトを使っている場合は、ソフトの入力画面に従って「社会保険料控除」欄に反映させることで、正確な申告ができます。
控除漏れは税金を余計に払う原因に
社会保険料控除を申告し忘れると、本来よりも高い所得税・住民税を支払うことになります。特にフリーランスや個人事業主にとっては、少しでも手取りを増やすために、控除制度の活用は欠かせません。
社会保険料は事業経費にはならないものの、「社会保険料控除」として全額を所得から差し引くことで、十分な節税効果が期待できます。正しく帳簿処理を行い、確定申告の際に漏れなく控除を適用しましょう。
個人事業主が「経費計上できる」保険と、できない保険の整理
よく混同されるポイントを、経費にできる保険と経費にできない保険で整理します。
経費計上できる(事業関連の保険)
- 事務所・店舗の損害保険(火災・設備・什器・商品など)
- 賠償責任保険(業務遂行・請負業者・PL/生産物、情報漏えい等)
- 事業用自動車の保険(対人・対物・車両)…私用兼用は走行距離や使用割合で按分
- 労災保険の特別加入保険料(対象業種の事業主等)
家事按分とは?個人事業主が知っておくべき経費計上の仕方や計算方法についてわかりやすく解説 | 経営者から担当者にまで役立つバックオフィス基礎知識 | クラウド会計ソフト freee
家事按分(かじあんぶん)とは?割合目安はどれくらいが適切なのか? – 川村会計事務所|大阪・堺の税理士事務所
経費計上できない(私的=家計の保険)
- 生命保険・医療保険・がん保険など:申告時は生命保険料控除などの控除
- 国民年金・国民健康保険・介護保険:社会保険料控除(=所得控除)
- iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金:小規模企業共済等掛金控除や社会保険料控除の対象
按分と実務のコツ
- 契約名義は屋号(事業名)で、補償対象は事業資産中心に。
- 兼用資産は面積・時間・走行距離など合理的根拠で按分し、メモを保存。
- 保険証券・約款・領収書は年度別ファイルで保管(税務質問に即応)。
個人事業主の社会保険Q&A|扶養・義務化・負担額・加入条件・従業員対応まで総まとめ
国保や国民年金に「扶養」の仕組みはある?
ありません。会社員の社会保険では、配偶者や子どもを「扶養家族」として登録すれば、自分の保険料だけで家族も保障を受けられました。しかし、国民年金や国民健康保険には扶養制度がないため、家族一人ひとりが加入者となり、それぞれ保険料を負担する仕組みです。
そのため、子どもが成人したり、配偶者が専業主婦(夫)であっても、加入人数が増えればその分保険料も高くなる点に注意が必要です。
個人事業主でも社会保険に入れる?任意加入はできる?
個人事業主本人は原則として社会保険(健康保険・厚生年金)に加入できません。ただし、法人化した場合や一定人数以上の従業員(常時5人以上)を雇用した場合には、社会保険への任意適用・強制適用が発生します。
また、建設業・運送業など危険業種では「労災の特別加入」などの選択も可能です。
社会保険に加入しなければならない人数の目安は?
常時5人以上の従業員を雇用する個人事業所(例:美容室・飲食店など)は、健康保険・厚生年金の適用事業所になります。5人未満の場合は原則対象外ですが、法人化している場合や任意適用申請をした場合には加入も可能。
パートや短時間労働者も、週20時間以上・年収106万円以上などの条件を満たせば加入対象となります。
個人事業主 社会保険料 いくら?負担額の目安と計算方法
国民健康保険・国民年金の負担は地域や所得によって異なりますが、所得300万円の個人事業主なら年間45〜55万円前後が一般的な目安です。
従業員を雇っている場合、会社(事業主)が社会保険料の半額を負担します。
詳細な試算は各自治体の「国民健康保険シミュレーター」などで確認できます。
個人事業主 従業員 1人・2人 社会保険|加入義務の目安
個人の事業所で従業員が1〜2人の段階では、社会保険の強制加入義務はありません。ただし、雇用保険や労災保険は対象になるため、労働保険の加入手続きが必要です。
家族を従業員として雇う場合は「専従者給与」として税務処理するため、別ルールで社会保険を検討します。
なお、従業員が常時5人以上になると、社会保険(健康保険・厚生年金)の適用事業所として加入義務が発生します。
個人事業主 従業員 社会保険 手続き|新規適用と届出の流れ
個人事業主でも、常時5人以上の従業員を雇うと、健康保険と厚生年金の社会保険加入手続きが必要になります(一部業種を除く)。
加入手続きは、年金事務所への「新規適用届」提出から始まり、従業員ごとに「被保険者資格取得届」を提出します。また、雇用保険や労災保険は従業員が1人からでも対象になるため、ハローワーク・労基署での手続きも忘れずに行いましょう。
社会保険料を安くする・節税するおすすめ方法は?
所得が高くなると国保負担も上がります。所得控除を最大化するために、小規模企業共済やiDeCoなどを併用するのがおすすめです。これらの掛金は全額所得控除となり、社会保険料控除と合わせると節税効果が大きくなります。
パートや掛け持ちの仕事でも社会保険に入れる?
パートや副業(掛け持ち)で働く場合でも、勤務時間や収入が一定基準を超えると、勤務先の社会保険(厚生年金+健康保険)に加入できます。
具体的には、週20時間以上勤務・月収8.8万円以上・勤務期間2カ月超見込み・学生でないなどの条件を満たすと加入義務が発生します。一方、個人事業主としての活動がメインで、パートが補助的な場合は、国民健康保険・国民年金のままになるケースが多いです。
掛け持ちが多い人は、どの所得が主たる生計かを基準に判断されるため、確定申告や保険の切り替え時に確認しましょう。
まとめ
個人事業主は、会社員とは異なる社会保険制度に自身で加入する必要があります。基本は「国民健康保険」と「国民年金」ですが、任意継続や国保組合といった選択肢もあり、ご自身の収入や家族構成によって有利になる方法は異なります。
また、退職直後は国保や任意継続の手続き期限が短いため、「知らなかった」では済まされない状況になることも少なくありません。事前にしっかりと情報を集め、計画的に行動することが大切です。

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