個人事業主は配偶者の扶養に入れる?社会保険・税制上の扶養の違いと注意点を解説

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結婚していて、配偶者が会社員(社会保険加入)というケースでは、「扶養に入っているから安心」と思っている人も多いでしょう。

しかし、個人事業主として開業届を出した場合、「そのまま扶養に入っていられるのか?」という点は少し複雑です。

結論から言えば、個人事業主でも一定の条件を満たせば扶養に入れる可能性があります。ただし、“税金上の扶養”と“社会保険上の扶養”はまったく別物であり、それぞれで判断基準が異なります。

この記事では、両者の違いと注意点をわかりやすく整理し、どのような場合に扶養のままでいられるのかを解説します。

本記事では「個人事業主は配偶者の扶養に入れるか?」に焦点を当てています、国保・年金・任意継続など社会保険制度の全体像は個人事業主の社会保険まとめページで詳しく解説しています。

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作成者
眞中 秀和
監修者

目次

扶養には「税制上」と「社会保険上」の2種類がある

「扶養」という言葉はひとくくりにされがちですが、実は目的の異なる2つの制度があります。

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区分管轄内容判定基準主な影響
税制上の扶養(配偶者控除・配偶者特別控除)税務署(国税庁)所得税・住民税の軽減所得(=収入-経費)所得税・住民税の減額
社会保険上の扶養健康保険組合/年金機構健康保険・年金の加入可否年収(見込み収入)保険料の負担有無

この2つを混同して「103万円を超えたら扶養から外れる」と考えてしまう人が多いですが、それは誤解です。税金と社会保険では扶養の基準・判定方法・影響がまったく異なります。

税制上の扶養:個人事業主でも条件を満たせば対象に

税金面での扶養とは、「配偶者控除」または「配偶者特別控除」を指します。配偶者(多くの場合、会社員である夫)の所得から一定額を差し引いて、世帯全体の税金を減らす仕組みです。

▶ 配偶者控除の条件

  • (扶養に入る側)の所得が38万円(58万円)以下(給与収入なら103万円(123万円)以下)
  • (扶養する側)の所得が1,000万円以下

個人事業主の場合、所得=売上-経費で判断されます。たとえば、売上が150万円でも経費が120万円あれば所得は30万円なので、配偶者控除の範囲に収まることになります。

また、年度により控除対象者の所得要件が変わるため、この点も注意が必要です。令和7年度であれば58万円以下ですが、令和6年以前だと48万円以下となります。(元年以前は38万万円以下)

控除対象配偶者となる人の範囲

控除対象配偶者とは、その年の12月31日の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人です。なお、控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除は受けられません。

(1)民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。

(2)納税者と生計を一にしていること。

(3)年間の合計所得金額が58万円以下(注)(令和2年分から令和6年分までは48万円以下、令和元年分以前は38万円以下)であること。給与のみの場合は給与収入が123万円以下(令和6年分以前は103万円以下)

No.1191 配偶者控除|国税庁

▶ 配偶者特別控除の対象

所得が38万円を超えても、配偶者の所得金額に応じて、一定の金額の所得控除が受けられる場合があります。これを配偶者特別控除といいます。

年間の合計所得金額が133万円以下であれば段階的に「配偶者特別控除」が適用され、徐々に減少していく仕組みです。所得金額が58万円超、95万円以下であれば満額の控除を受けることができますが、133万円以下までの間が細かく設定してあるため、リンク先にて確認しましょう!

No.1195 配偶者特別控除|国税庁

社会保険上の扶養:判断基準は「年収130万円未満」

一方、社会保険上の扶養は、健康保険や年金の加入資格に関わるものです。会社員(配偶者)の社会保険に「被扶養者」として登録されることで、あなた自身が保険料を支払わなくても医療・年金の保障を受けられます。

▶ 一般的な条件

  • 年収130万円未満
  • 今後も継続的にその収入である見込み
  • 主たる生計維持者が被保険者(配偶者)であること

この「年収130万円」はあくまで見込み収入で判断されます。一時的に売上が増えただけでは即座に扶養から外れるわけではありませんが、継続して130万円を超える収入が見込まれると、健康保険組合から「扶養見直し」の通知が届くことがあります。

ちなみに直近ではこういった見直しも行われていますので、こういった社会保険や税制に関しては、定期的に確認をすることをおすすめします。

扶養認定日が令和7年10月1日以降で、扶養認定を受ける方が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く。)は、現行の「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わります。なお、この「年間収入要件」以外の要件に変更はありません。

19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります|日本年金機構

個人事業主でも扶養に入れるケース・外れるケース

扶養に入れるケース

  • 開業したばかりで売上が少ない
  • 年間の所得(=売上-経費)が少なく、年収換算で130万円未満
  • 継続的な収入が見込まれない(副業的な活動)
  • 主たる生計維持者が明確に配偶者である

この場合、社会保険の被扶養者として認定される可能性があります。また、税制上も所得が38万円(58万円)以下であれば配偶者控除の対象になります。

扶養から外れるケース

  • 継続的に130万円を超える収入がある
  • 個人事業として安定的に利益を出している
  • 取引先が複数あり、実質的に「独立した事業」と見なされる
  • 開業届を出して数年が経過し、事業が軌道に乗っている

このような場合は、社会保険上の扶養から外れて自分で「国民健康保険」「国民年金」に加入する必要があります。

保険料の目安は、

  • 国民健康保険:約10〜20万円/年(所得による)
  • 国民年金:月17,510円(2025年度)

となり、年間で30万円前後の負担が発生します。

扶養から外れるとどうなる?加入手続きと費用負担

社会保険の扶養を外れた場合、以下の手続きを行う必要があります。

  1. 国民健康保険への加入(市区町村役場)
    → 保険料は前年所得に応じて算定。
  2. 国民年金への加入(日本年金機構または役所窓口)
    → 定額制(月17,510円)。
  3. 税務上の確定申告
    → 所得がある場合、毎年3月に確定申告が必要。

これにより、社会保険料を自己負担する代わりに、自分自身の年金記録や医療保障が独立して確保されるようになります。

注意点|扶養に戻るには「継続的な収入減少」が必要

一度扶養を外れたあと、収入が減ってもすぐに戻れるわけではありません。健康保険組合では「今後も収入が130万円未満になる見込み」が明確に立証されないと、再び扶養に入ることは認められないケースがあります。

たとえば、前年の確定申告書や今後の売上見込み資料の提出を求められるなど、審査がより厳しくなることもあります。

まとめ|個人事業主でも条件を満たせば扶養に入れる

個人事業主だからといって自動的に扶養から外れるわけではありません。事業の規模・収入の安定性・所得金額によっては、扶養のまま継続できる場合もあります。

ただし、130万円を超える見込みがある場合は、国民健康保険・年金への加入を前提に、事業を「本業」として展開していく準備を進めるのが現実的です。

「どのラインで扶養を外れるか」は単なる損得ではなく、家計全体の収支バランスと将来設計で判断することが大切です。


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