個人事業主は社会保険に加入できない?会社員との「保障格差」と、独立後に後悔しないための防衛策

会社員から独立したばかりの人が最初に戸惑うのが、「社会保険どうなるの?」という点です。結論からいえば、個人事業主本人は会社員のように社会保険(健康保険+厚生年金)に加入することはできません。
手続きを間違えると「無保険期間」ができたり、知識不足のまま独立して「怪我をして収入ゼロ」という最悪のケースに陥ることもあります。
この記事では、数多くの個人事業主を支援してきた初東互助会が、「社会保険の切り替えルール」だけでなく、会社員時代とのギャップを埋めるための「具体的な防衛策」について解説します。
個人事業主は“会社の社会保険”に加入できない理由
社会保険とは本来、企業と従業員の雇用関係を前提にした制度です。健康保険・厚生年金保険は「適用事業所」に雇用されている労働者が対象となるため、雇用主である個人事業主本人は原則加入できません。
| 加入可否 | 保険種別 | 対象者 |
|---|---|---|
| × | 健康保険(協会けんぽ・組合健保) | 雇用されている会社員 |
| × | 厚生年金 | 会社員・公務員 |
| 〇 | 国民健康保険 | 自営業・フリーランス |
| 〇 | 国民年金 | すべての20歳以上60歳未満の国民 |
| 〇 | 介護保険(40歳~) | 国保加入者・被保険者 |
つまり、独立した瞬間に「会社経由の社会保険」から外れ、自分で公的保険に入り直す必要が生じます。
【ここが危ない】会社員と個人事業主の「3つの保障格差」
制度上の「加入できない」は理解できたと思いますが、現場で問題になるのはその「中身」です。単に保険証が変わるだけでなく、いざという時の「保障」は驚くほど薄くなります。
- 「傷病手当金」がない(怪我=即収入ゼロ)
会社員なら病気や怪我で休んでも給与の約2/3が補償されますが、国保にはこの制度がありません。特に、体が資本である軽貨物ドライバーや建設業の方にとって、交通事故や入院は「生活費の減額」に直結します。 - 「厚生年金」がない(老後資金が半減)
個人事業主の「国民年金」は、満額でも月額約6万9,308円(令和7年度)です。会社員のような上乗せがないため、老後の備えは「自助努力」が必須です。 - 保険料が「全額自己負担」になる
会社員時代は会社が半分払ってくれていましたが、これからは全額自分持ちです。「売上は上がったのに、手取りが減った」とならないよう注意が必要です。
加入できない社会保険の代わりに入るべき3つの制度
個人事業主は以下の3つを基本として、自身で加入・管理します。
① 国民健康保険
市区町村が運営する医療保険制度。
病気やケガの際の医療費を3割負担で受けられます。前年の所得をもとに保険料が算出され、自治体によって差があります。
- 手続き:退職翌日から14日以内に市区町村で加入申請
- 負担軽減:所得が低い場合や子育て世帯には減免措置あり
② 国民年金
老後の基礎年金。厚生年金と違い、全国一律の定額制(令和7年度:月額17,510円)。付加年金や国民年金基金、小規模企業共済などで上乗せが可能です。
③ 介護保険(40歳以上)
40歳になると自動的に介護保険料が国保と一緒に徴収されます。
要介護時のデイサービスや施設利用が対象。
【FPが試算】年収500万個人事業主の保険料はいくら?
実際にどれくらいの負担になるのか、当記事監修者(FP)の視点で、個人事業主(30代・東京・独身)をモデルに試算しました。
■売上600万・経費100万(所得500万)の場合
- 国民年金: 約 210,000円(令和7年度:月額17,510円)
- 国民健康保険料: 約 481,000円(令和7年度:月額40,139円)
- 合計: 約 691,000円 / 年
※お住まいの自治体により金額は変動します。
ここからさらに税金がかかります。毎月約5〜6万円が保険料として消えていく計算です。この「見えないコスト」を考慮して、単価交渉や売上目標を設定する必要があります。
任意継続や家族の扶養という「例外ルート」もある
● 任意継続被保険者制度
退職前に加入していた健康保険を、最長2年間だけ個人で継続できる制度です。保険料は会社負担分がなくなるため、実質2倍前後に跳ね上がる点に注意。ただし所得が高い人や扶養家族が多い人にとっては、国保より安くなるケースもあります。
手続き期限:退職日の翌日から20日以内
● 家族(配偶者)の扶養に入る
配偶者が会社員などで社会保険に加入している場合、自分の年収が130万円未満(条件によって106万円未満)であれば、その扶養に入れる可能性があります。保険料がゼロになる大きなメリットがある一方、収入が増えると即座に扶養から外れる点には注意が必要です。
従業員を雇った場合の「社会保険義務化」ライン
個人事業主本人は加入できませんが、従業員を常時5人以上雇用した場合は、その事業所が「適用事業所」となり、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入が義務化されます。ただし、サービス業・農林漁業など一部業種は除外されるため、該当業種かどうかは日本年金機構の基準を確認しましょう。
国保の弱点をカバーする「最強の防衛策」
公的保障が薄い個人事業主は、自分で「盾」を用意する必要があります。支援団体の立場から、これだけは入っておくべき3つの対策を紹介します。
1. 労災保険への「特別加入」
通常、個人事業主は労災(労働保険)に入れませんが、運送業や建設業などは「特別加入制度」を使えば加入できます。月額数千円〜の負担で、仕事中の怪我の治療費が無料になり、休業補償も出ます。現場に出る方は加入必須レベルです。
2. 民間の「所得補償保険」や「共済」
病気や怪我での長期入院に備え、民間の保険や共済制度などで、働けない期間の収入を確保しましょう。医療保険(入院1日1万円)よりも、生活費をカバーする「就業不能保険」タイプがおすすめです。
3. 業種によっては「組合国保」を選ぶ
建設業の「建設国保」や、クリエイターの「文芸美術国保」など、業種ごとの組合に入れる場合は、保険料が定額で安くなるケースがあります。
【H2】初東互助会が推奨!損しないための「3ステップ・チェックリスト」
ここからは、実際に個人事業主・フリーランスの方から日々相談を受けている当会の経験をもとに、「会社員から独立する人が社会保険で損をしないためのロードマップ」を整理しました。

Step1|退職前にシミュレーションしておく
辞めてから慌てないよう、会社にいるうちに以下の数字を確認します。
- 見込み年収の算出: 独立後1年目の売上をざっくり出す。
- 扶養の確認: 配偶者の勤務先の健康保険に「被扶養者」として入れるか?
- 国保組合の確認: 自分の業種(建設・文芸など)で入れる組合があるか?
- 任意継続の試算: 退職前の給与明細を見て「健保料×2倍」の金額を出し、居住地の国保料と比較する。
この時点で決めたいこと
退職直後は「A:任意継続」「B:国保」「C:扶養」のどれを第一候補にするか、仮決めしておきましょう。
Step2|退職〜30日までに“漏れなく”手続きする
退職したら、期限との勝負です。
- 翌日〜14日以内: 市区町村役場で「国民健康保険+国民年金」への切り替え(または扶養入り)手続き。
- 翌日〜20日以内: 「任意継続」を選ぶ場合は、協会けんぽ等へ申請(※1日でも遅れるとアウトです)。
- 減免確認: 役所に行ったついでに、減免制度(失業・子育て・低所得など)が使えるか必ず窓口で聞く。
初東互助会としてのポイント
独立初年度は「前年の会社員年収」を基準に国保が計算されるため、保険料が高く感じやすい時期です。この段階で不安になって高額な民間保険に入りすぎるのはNG。まずは公的な減免や選択肢を整理することを優先してください。
Step3|1年目〜3年目で「上乗せ」と「将来」を整える
独立後しばらく経ち、売上が安定してきたら「長期の設計」に入ります。
- 老後資金が不安
→ 付加年金・iDeCo・小規模企業共済(節税も兼ねて)を検討。 - 働けなくなるリスクへの備え
→ 互助会の共済や、就業不能保険を「必要最低限」で設計。 - 所得が上がってきたら
→ 国保組合への加入や、法人化(マイクロ法人)による社保加入も検討。
ここでの注意点
「とりあえずいろいろ入る」のではなく、①公的制度を前提に、②固定費として無理のない範囲で、③税制メリット(控除)も含めて設計すること。当会への相談でも“勢いで保険に入りすぎて、資金繰りが苦しい”というケースが少なくありません。
まとめ|加入できないのではなく「自分で選ぶ」
個人事業主は会社の社会保険には加入できません。しかし、自分で選べる「国保」「国民年金」「国保組合」「任意継続」「扶養」など複数の制度が存在します。
独立後は“自分で社会保険を設計する”という意識が大切です。特に、14日・20日の期限を逃さず手続きを行うことなど見逃すと後で損するポイントが増えます。
ここら辺を理解し、最善の手を打つことが最初の1年を安定させる大きな分かれ道になります。







